鍼灸師法制定を

 

会長 河野 紘

週刊あはきワールドに

「欧米の特許戦略で危うし東洋医学」

2日目の招待講演1は、富士通総研研究員・田邉敏憲氏による「統合医療の科学技術戦略」だった。田邊氏は、昨年427日付日経新聞朝刊に、同様のタイトルの文章を寄稿し、欧米の多国籍企業が代替医療、伝統医療をわがものにするために特許戦略を発動しているというただならぬ状況を報告し、日本政府、官庁が無対応であることに警鐘を鳴らした。今回の講演もその評論を引き継ぐもので、米国の製薬会杜がチベット医学の7000種に及ぶ薬草の成分を分析し、特許化した例などを挙げ、漢方、アーユルベーダなどの伝統医療が抑え込まれようとしていることに東洋医家は危機感を持つべきだと述べた。

田邉氏は、こういう状況は、現代医療が世界的に行き詰まり、医療産業が代替医療に進出していることと社会のIT時代へのシフトが重なったことで可能になったと、地球規模の文明の変化から説き起こした。事態が後戻りすることはないので、わが国も早急に統合医療戦略を持たなければならないのに、日本政府は無策だというわけである。

米国では、診断・治療法が特許化でき、大村恵昭氏のO一リングテストも特許が認められているという。こういう田邉氏の報告から予想できるのは、今後、アメリカ鍼灸が本格的に立ち上がった際、中国鍼や日本鍼を変容させたような刺法を編み出し、特許化することもあり得なくないということである。中国や韓国が中医学、韓医学を世界遺産に認定させようと図るのも、こういう欧米医療の動向をキャッチした上での対抗策だと考えれば理解できるのである。』週刊あはきワールド2007627日号 bS1【ニュース特集】。

という衝撃的な記事が掲載されました。このような状況は絵空事ではなく現実の日程に上りつつあるのです。それは、

『海外における鍼灸の評価の大きな変化を告げています。鍼灸がCAMとして高い注目を集め、メジャーな医学雑誌にも研究論文が掲載されるようになったというのです。また、MRIや近赤外分光法などのイメージング技術によって脳活動を把握し、鍼の作用機序を解明する研究も進んでいるそうです。昨年11月の京都国際シンポジウムで、ドイツなどから鍼による膝関節症のRCT研究が発表されたように、鍼のエビデンス作りが海外主導型になる時代は既に来ているのです。』同。

という現実があるからです。世界的に西洋医学の限界が指摘され始め、東洋医学に対する認識が変化し、その有効性を確かめる過程において、ただならぬ可能性を西洋医学自体が感じ取ったためであると思われます。

 

我々鍼灸業界や、日本政府が惰眠を貪っているうちに世界は大変な勢いで統合医療に進み、新たなビジネスの対象として鍼灸が注目され権益化されるという危険が目前に迫ってきているのです。我々が、日本政府が何もしないで手をこまねいているばかりであれば、日本の伝統文化である日本鍼灸は壊滅させられることになります。特許権料を支払いながら、アメリカ鍼灸や、中国鍼灸を行なわなければならない事態が来ないとも限りません。

 

これらに対抗するために我々は何をしなければならないのか真剣に考えなければなりません。日本鍼灸を中医学、韓医学と並ぶ日本伝統医学として確立することも必要であります。しかし現実の教育制度、研究制度では甚だしく心もとないのが現実です。 

 

東洋医学は明治の医療制度改革で深刻な打撃を受けました。又、鍼灸は終戦時に存廃の危機に立たされました。しかし、「効く」という事実と国内の間題にとどまっていたことによりなんとか命脈を保つことが出来たのです。

しかし、今回は様相が大きく変わり、日本文化である日本鍼灸が、世界の鍼灸と医療産業との戦いに引きずり出されるという事態がやってきているのです。

 

我々は日本文化である日本鍼灸を守り、発展させることが人類にとって必要なことであり、国益にも適うことであることを政府に認識して貰う必要があります。そして先ず鍼灸師法を制定し、教育、研究体制を確立し、日本鍼灸を体系付けしなければなりません。それによって世界の鍼灸と医療産業を迎え撃つ準備をしなければなりません。

現在、欧米では中国鍼灸が席巻しておりますが、中国鍼は痛いという定評があり、繊細な日本鍼灸は喜ばれているということです。日本鍼灸を残し、発展させることは、世界の鍼灸界にとっても必要なことなのです。又、癌に対する積極的な鍼灸治療も始まりました。鍼灸治療をメインにした癌専門クリニックも出現し驚異的な成果を挙げています。鍼灸治療の可能性は無限であり、特に慢性病治療においては大いに効果を期待できる領域であると思います。

 

『「東西医学の融合に向けて‐21世紀の医療の中核をつくる」では、原田・東邦クリニック医師の原田康平氏が、「これまでは“東洋医学を科学する”というスローガンで研究が進められてきたが、これだけでは不十分である。西洋医学の伝統医学化という方向性も視野にいれるべきである」と高血圧治療を例に話題を提供したのが目を引いた。すなわち、漢方家は、東洋医学を正統医療に、西洋医学を代替医療にする試みを既に開始している。』同。『鍼灸医学の使命は現代医学の補助にあるのではなく、独自の医学(カウンターメディスン)として役立つことだという認識に立っています。学問としての鍼灸学もまた、鍼灸が現代医学から認知されるためのものではなく、鍼灸の側から医学全体を見直すためのものとして位置づけられています。』同2006年9月6日号 1まつだひろきみの「鍼灸できょうも元気」第1回。というような指摘も出始めております。

 

このような認識は政治家も共有すべきものであり、このような認識の上に立った法整備によって、医療全体において東洋医学をどこに位置付けるかを明確にすることが必要であると思います。我々鍼灸師には社会的な地位や経済力、組織力など無いに等しい状態ですが、現状を放置しておいては悔いを千載に残すことになるでありましょう。力はなくても政治家諸賢に知っていただくことは可能であると思います。日鍼会が国会議員全員に文書を送り、各県師会が地元選出の議員に陳情し続ければ周知は出来るはずです。我々には力が無いのですから、良識ある国会議員にゆだねる以外方法はありません。国会議員は日本の将来にとって必要なことを先取りして実現することが使命であるからです。せめて狼煙だけは上げようではありませんか。

 

【鍼友灸友42号】

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