鍼灸師法の制定を!

 1本の髪の毛のような細いハリが体内に正気を送り、邪気を抜く、また、一ひねりの艾が正気を助け、気をめぐらせる。これによって病気が治っていきます。なんと神秘的な治療法ではありませんか。中国から伝わり、日本の風土と、日本人の感性によって独自の発展を遂げた鍼灸治療は、病気の治療のみならず、予防に威力を発揮します。

 このハリ・キュウが今世界で注目され、実際に治療を受ける人がどんどん増えています。それは、先進国で主流となった西洋医学が、必ずしも万能ではなく、薬の副作用や、費用対効果の面などで見直しを迫られ、実際に効く治療法であれば、科学的に説明できなくても積極的に治療に取り入れていこうと言うことになって来たからです。

 そこで、アメリカではNIHが全米九つの有名大学に対し、現代西洋医学以外の様々
な治療法が本当に効果があるのか否かを実証する研究を委託しました。この研究によって、西洋医学に比較して効果が同等若しくは勝っているものを代替医療とし、西洋医学と同時に用いて補完的な作用を発揮するものを相補医療として分類し、積極的に治療に用いるようになってきました。この中で、ハリ・キュウが代替、相補医療として効果を挙げ得るとされた疾患がどんどん増えています。例えば手術後の嘔吐・嘔気、妊娠時のつわり、歯科の術後痛、脳卒中のリハビリ、頭痛、生理痛、薬物中毒、喘息、変形性関節炎などであります。

 この流れを受けて、日本でも日本代替、相補、伝統医療連合会議JACT)と言う団
体が設立され様々な活動を開始しています。将来は、患者個々人に最適な医療を施す統合医療化が推進されていくでしょう。この中で、鍼灸を含む東洋医学は重要な地位を占めることになります。これは西洋医学界の主導で進められております。

 これは大変結構なことなのですが、鍼灸と開業鍼灸師にとっては存亡に関わる一大事となっております。それは、明治の医療制度改革以来の逆風の中で鍼灸の伝統を守り通してきたのは開業鍼灸師であったのですが、鍼灸の効果が認められてくると医療施設でどんどん取り入れられるようになってきたからです。15年前の調査でも全国1万ヶ所以上の医療施設で鍼灸治療が行われて居るということであります。

 現在は混合診療の禁止規定により、保険医療機関での鍼灸の保険診療は認められておりません。医師が行う場合でも無料であることが条件となります。しかし、このこと自体が開業鍼灸師を苦しめております。開業鍼灸師は数千円の治療費が相場ですが病院では無料で治療して貰えるのです。

 また、昨今の政治情勢により財政再建が叫ばれ、構造改革、規制緩和が進められており、混合診療の禁止規定も廃止が避けられない状況になってまいりました。そうなればそうなったで、保険医療機関で鍼灸治療がどんどん行われるようになります。それは鍼灸治療がよく効くことと、鍼灸師養成施設の乱立で鍼灸師も急増し、就職先を求めているからです。

 医療機関において低料金で鍼灸治療が受けられるのは結構なことのように感じられますが、保険治療で採算ラインに乗せようとすると、多数の人を治療しなければならなくなります。必然、短時間治療となり、鍼灸治療自体が変質せざるを得なくなります。そのため鍼灸治療の本当の良さが失われていく危険性があります。当然、開業鍼灸師も今以上に医療機関との競合が生じ、低料金化を迫られることになります。結果的に東洋医学的な手段(ハリや灸)を使った西洋医学が残っていくでしょう。

 このような状況は鍼治療の将来にとって、あるいは今後どう変化するか予測困難な医療技術にとって非常に憂慮すべきであります。今、なぜ東洋医学、特にハリが注目されるかといえば、西洋医学とは異なった疾病観を持っている(病人を全体的に診る医学である)ということ、深刻な副作用が無いこと、低コストであるということです。このような東洋医学の特質を失っては何にもなりません。あくまでも東洋医学でなければ存在価値は無いのです。
 
 鍼灸治療の可能性は無限です。しかし鍼灸治療の力を遺憾なく発揮させるためには相当な努力が必要です。開業鍼灸師にとっても絶えざる研鑽が必要であることは多言を要しません。我々は、日本文化であり、無限の可能性を持った鍼灸治療をさらに発展させていきたいと考えております。それには現在の鍼灸師の身分は非常に中途半端であり、鍼灸治療の潜在力を遺憾なく発揮させるためには甚だ心もとない現状です。これが改善のためには、日本の医療の中で鍼灸をどう位置付けるのか、担い手である鍼灸師をどう位置付けるのかを医療制度全体の視点で考えなければならないと思っています。

 我々は、鍼灸治療の特殊性から、その発展のためには開業鍼灸師の存在が是非とも必要であると考えております。それは、学と共に術の伝承が重要であるからです。その特殊性のゆえに中・韓両国においてはそれぞれ中医師・韓医師という制度を創設し東西両医学の健全な発展を図っています。我国の医療制度の中で鍼灸を積極的に取り入れるためには、鍼灸師の資質を向上させる必要があります。その為には鍼灸師養成の教育制度、実地研修制度、生涯研修制度などを整備しなければならないことは明らかです。このためには抜本的な法整備しか道はあり得ません。

 如上の理由から、「鍼灸師法制定の趣旨」を纏めました。我々は、鍼灸治療を国民の健康保持増進に役立てるためには我々自身も変わらなければならないと考えております。その為のご協力、御助言、ご叱正をお願い申し上げます。

 

鍼灸師法制定の趣旨 

東洋医学と位置付けられてきた鍼灸医学は、もはや東洋固有の伝統医学としてだけではなく代替医療の一環として、世界レベルで注目され、内科的疾患などにも有効な治療法として認知されている医学である。欧米の多くの国では医師が医療行為の一環として行っており、鍼灸治療を行うためには専門の研修を義務付けられている。たとえば、アメリカでは州によって異なるものの、カリフォルニア州においては大学卒業後、3年間大学院で修学し受験するような大学レベルの教育になっている。

また、中・韓両国においてはすでに、中医師・韓医師としての制度が整っており、医療の中で重要な役割を果たしている。しかるに日本では医療としての位置付けが暖味で、保険治療では大きな制約を課せられ、対象疾患は整形外科領域の一部に限定されている。

このようなことでは、わが国の鍼灸は一千数百年の歴史と伝統を有するにもかかわらず今後の世界レベルの発展に遅れを生じかねない。これは、わが国において鍼灸を医療制度の中でどのように活用していくべきかという視点が欠落していたことが大きな要因と考えられる。

鍼灸治療は他の医療とは異なる独立した治療行為である。然るに現行法では「あはき法」として、あん摩マッサージ指圧と同一の法律の下に規定されている。現行法以前の内務省令第十一号では「あん摩マッサージ指圧」とは区分された身分取締りであった。

今後、わが国の医療の発展に寄与する為には、明治以来の鍼灸に対する偏見を払拭しなければならない。そして、その偏見の中で鍼灸を護り通した鍼灸師の権利を擁護し、医療における「鍼灸の位置付け」と「鍼灸師の位置付け」を明確にし、鍼灸の専門家としての経験を生かせるような新たな法制定が急務である。これがすでに日本文化となっている鍼灸を活用し、国民の保健衛生の向上に役立てるために必要なことである。また、国際社会における東洋医学の発展にわが国が貢献するためにも、速やかな鍼灸師法の制定が必要であり、これを要望するものである。

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